ストーン・リバー

１１月２９日、今時の学生さん？

縁があって、今日、ある大学の「人権問題論」の受講生を受け入れて、フｨールドワークを行った。事前に５０分ほど、地区の説明をし、その後、半時間あまり、地区を歩いた。１０人余りの小人数で、しかも、義務ではなく、自発的に参加したとのことなので、あれこれ尋ねられるのではないかという「心配」もしていた。

しかし、あにはからんや、みなさん、おとなしくかしこまっていたので、びっくりした。いわゆる「部落」に足を踏み入れて、直接、話を聞くということへの「緊張感」もあったのかもしれない。何を、どう聞けばいいのか、躊躇もあったのもかもしれない。

しかし、過ごしたのはわずか２ｊ時間たらずではあったけれど、今日のことが彼ら・彼女らの記憶に刻まれ、いつかどこかでよみがえることがあるやもしれないと思う。こうした「出会い」の持つ意味は、そんなところにあると思う。

私にできることは、ささやかなキッカケの一つをつくることぐらいだ。あとは、彼ら・彼女らの感性に期待するしかない。部落問題と出会ったときに、努々、差別をしたり、黙認する側にだけはなってほしくない。そのときに、私の話の断片を思い起こしてもらえれば幸いだ。

１１月２６日、「同和」行政のゆくえ

２６日、部落解放同盟豊中市協議会と豊中市との交渉が行われた。かつてのように行政責任を追及し、「要求」を通すというのではなく、部落問題の根本的解決、すなわち、どうしたら部落問題が解決するのかということについて、お互いの創意と知恵を出し合い、異見を交わす場である。

交渉の前、私はこうして顔をつき合わせる場の意味はどこにあるのかだろうか？いつまでもこんな調子でいいはずはないなあ、などと考えていた。形式を含めて、もっと違った関係をつくるべきかなとも思っていた。しかし、ふたをあけると、私の思いや考えは時期尚早だと思い知らされることになった。

人権侵害や差別事件が起きた時にどう対応すべきか？こんな言わずもがなのことがこの日のメインテーマになったのだ。人権を侵害された者や差別をされた者の立場に立って、サポートを含め、できる限りのことを実行するというのが、人権行政・「同和」行政として当たり前のことだと思ってきた。

しかし、そうではないと市は言う。条例や法律の限界性を持ち出したり、あげく、人権を侵害したり、差別をした者に関する個人情報も保護の対象になるなどと、言い出すのだ。その結果は、思考停止であり、差別・人権侵害の黙認・看過となった。

あいた口がふさがらないとはこのことだ。そのくせ、口を開けば「部落差別がある限り、同和行政を推進していく」などと、恥ずかしげもなくのたまうのだ。権力機構の末端を担う地方行政の本質が露わだ。しかし、よもや豊中市がそれを地で行くとは思わなかった。

11月２３日、なぜか中野重治

今夜おれはおまえの寝息を聞いてやる
おれはおまえがおまえの仕事に忠実であることをほめてやる
おれが警察から警察へまわされていたとき
おまえはささやかな差入れものをかかえて次々とまわって来た
それは白い卵をかかえて巣移りする蟻のようだった
しかしそのためおまえがおまえの仕事を少しでも怠るのであったらば
おまえの心づくしを受け取ることがおれにできなかったろう
やがておれが刑務所へまわったとき
おまえはふたたび手を振ってやって来た
しかしもしおまえが
おれたちの引き裂かれたことをおまえの仕事を高めるモメントとしているのでなかったならば
おれは面会所で編笠を取ることができなかったろう
おまえはいつも仕事に忠実であったし今も忠実である
おまえはあした仕事を追うて川越へ行く
おまえは一人でさっさと支度をし
いまはかすかな寝息をたてている
おれはおまえの寝息をかぞえ
おまえの寝息の正確なことをほめてやる
正確な寝息は仕事にまめまめしいもののものだ
おまえはおまえの仕事に常にこまめやかに
それ一つでいい
かつて引き裂かれたおれたちはまた引き裂かれるかも知れない
しかしおれたちがおれたちの仕事にそれぞれ忠実であるかぎり
おれたちを本質的に引き裂く何ものもない
すべての手段を奪ったものも献身による手段を奪うことはできない
おれはおまえの寝息をかぞえてその安らかなことをほめてやる
未来にわたって安らかにあれ
仕事に忠実であることの安心の上に立って

11月20日、私の「こわい考」

私を「こわい」という人がいる。
私の何が「こわい」のだろう？
容貌はお世辞にも可愛いとは言えず、取りつきやすくもないなあ。
話しぶりも突き放したようで、圧迫感があるなあ。
総じて、近寄り難いという印象を持たれても仕方ないなあと。

でも、これらは私が意図して、意識的にやっていることではない。
言うなれば、これが私の「個性」なのだ。
だから、人からそういう指摘を受けても、なかなか直せない。
そして、何度か話すうちに、人はそれを理解し、打ち解けてくれる。
人と人の関係はそんなものだろうと思う。

ところが、全てそういうふうに運ぶとは限らない。
「こわい」という印象がずっと離れず、引きずったままという人も出てくる。
そこで、私ははたと考え込む。
この私の、こんなに思いやりに満ちた私のどこが「こわい」のか？
答えを自ら探すはめになる。

そして、当たり前の答えに行き着く。
私という人間が、私の個性が「こわい」のではない。
私の属性となっているものが「こわい」のだ。
それは、私が「部落解放同盟」を体現しているからだ、
「おそれ」の正体はそれだ。

「こわい」と言う人は、しかと自分の心の内をのぞいてほしい。
一体、何が見える？
部落に対する特別な感情がありはしないか？
そんなものはないとおっしゃるでしょう？
いやいや、もう一度よ～く。

私が敬愛する藤田敬一さんの著書「同和はこわい考」に次のような一節がある。

――問題提起、告発、糾弾をする側とされる側とのあいだには、よほどの例外を除いて極度の緊張関係が生じている。加えて「される側」の緊張はその人に被差別部落（民）に対するイメージと「無限責任への恐怖」によって増幅されているから、とても冷静に対応できる状態にないことが多い。いわゆる「しどろもどろ」というやつである。しかし「威圧的な態度」や「脅迫」はもちろん、厳しい指弾がない場合ですら人によっては「しどろもどろ」になることがある。――

私の指摘や非難は、「無限責任への恐怖」となって、相手に跳ね返るのだ。
もちろん、私はそれを承知でそうした振る舞いをしてきた。
だから、それがそうした「反応」を結果しても、驚きはしない。
そこからが「始まり」だと思ってきたからだ。
だが、「始まり」から一歩も進まない。

問題の本質は、どこにあるのか？
私という人間が「こわい」のではないことは自明だ。
それは、私が体現している「部落解放同盟」にある。
そこには部落問題のデリカシーがある。
それに気づかない限り、「こわい」感覚からは自由になれない。

言うなれば、私を通じて部落問題の「核心」に出会ったのだ。
沸々と湧き出る「無限責任への恐怖・おののき」には、終わりがない。
自分を見失い、彷徨うだろう。
心身のバランスを崩すだろう。
さあ、どうする？

部落問題と、部落差別と向き合うとはどういうことか？
差別を許さないとはどういうことか？
今まさにそれが、自身に突きつけられている。
部落問題をジブンゴトにできるかどうかの試金石だ。
本気度が問われているのだ。

11月19日、万斛の涙

夜は突然明けた
昨夜来の地鳴りのような慟哭は失せ
新しい朝が新しい世界を連れてきた

誰が好んだ訳でもない
誰が望んだ訳でもない
道は用意されていたかのように現れた

満身創痍の
ファイティング・ポーズ
目だけがぎらつく

拳をほどきグローブを外そう
もう撃つことも撃たれることもない
リングにグッドバイ

去る者と残された者
いずれが勝者で敗者か
神のみぞ知る

土と太陽と水が花を生かすように
在るべき所に在るべき者がいて
確かな歴史が記される

待ちに待った邂逅
水を得た魚のごとき勇躍
時代の鐘が鳴り扉が開く

邪悪が善良を蹴散らし
陰険が誠実を切り刻み
高慢が謙虚を飲み込む

吹き荒れる暴虐の嵐
耐えれば芽吹きの春
夢よ誇りよ志よ

（未完）

「斛」は「石」（こく≒180リットル）に同じ。「万斛」は一万石、大量の意。

11月１７日、インフォメーション

世界人権宣言６０周年記念豊中集会

日時：12月5日（金）　ごご6時30分～
会場：人権まちづくりセンター４階ホール
内容：趙博さんの歌うキネマ「砂の器」
主催：世界人権宣言豊中連絡会議（06-6841-5300）
入場無料

今年は「世界人権宣言」が採択されて60周年。豊中でも標記のイベントが行われます。
●砂の器
松本清張の小説を、野村芳太郎監督、橋本忍・山田洋次脚本で、1974年松竹で映画化。昭和４６年６月、国鉄蒲田操車場構内で起きた殺人事件の捜査は、秋田、島根、伊勢、石川、大阪へと広がっていった。ベテラン刑事・今西[丹波哲郎]と若手刑事・吉村[森田健作]の執念で、天才音楽家・和賀英良[加藤剛]が容疑者として浮かぶ。しかし、その背景にはハンセン病に対する差別ゆえに故郷を捨てなければならなかった親子の姿があった…。映画が小説を越えたと評された、戦後日本映画を代表する秀作。

11月15日、地殻変動を呼ぶ「決断」

鎌は研ぐためにあるのではない。物を刈るためにあるのだ。当たり前のことだが、刈るぞ、刈るぞと言いながら、刈れずにきたような気がする。覚悟を決めて、さっさと刈ればよかったのかもしれない。「温情」が災いしたとも言える。

度し難さは天下一品、これ以上はいないと思われるほどの「お馬鹿」ぶり。善意でお人よしの人々をたぶらかすのは朝飯前。「仮病」ではないだろうが、どこそこが痛いなどと同情を買うのはお手の物。かくして、自らを安泰の位置におき、のうのうと居坐る。

自らの犯した過ちを顧みることには臆病なくせに、助け舟が出ると、恥も外聞もなく即座に乗り込む。これほどの厚かましさ、恥知らずがあろうか。良心というものがあるなら、とうていできるはずもないことを、平然とやってのける神経の持ち主だ。

こんな輩を相手にしているのだから、尋常のアプローチでは如何ともし難いのだ。しかし、鎌は人を刈るものではないと言い聞かせ、自重を重ねてきた。そのあげく一方は居直り続け、一方は最後の「決断」をするに至るという、痛憤の事態に立ち至った。

もはや、言葉は不要。鎌あるのみ。

11月14日、鎌を研ぐ

鎌を研ぐ

トンネルの先には景色が広がっている。
トンネルには出口がある。
最も暗い夜明け前の先には朝が待っている。
明けない夜はない。

夜の帳に包まれた世界
闇の中では妖怪が蠢く
時に、冷笑を浴びせ
時に、牙を向ける

闇はどんどん深くなり
夜明けはどんどん遠くなる
跳梁跋扈する妖怪たち
息を殺すか弱き者たち

覆うべくもない論理的破綻
見るも無惨な倫理的堕落
まかり通る厚顔無恥
繰り返される居直りと逃亡

人間の尊厳と人権の蹂躙
事実の改竄と否定
断罪されるべき者が庇護され
名誉回復されるべき者が忍従を強いられる

真実や正義はそれ自身に力があるのではない
それらを体現する者の苦闘によって実現される
不実や不正義が邪悪な心とつながり
真実づらや正義づらをして人々をたぶらかす

濃淡の差はあっても
人々の心は差別の色に染まっている
誰しも差別から自由ではない
差別に同調・共鳴・共振するゆえんがここにある

不実や不正義、差別を見抜き、撃つことは厳しい
これに与することは容易かつ安楽だ
撃てば返り血を浴び、自らが撃たれるのは必定
鳥も鳴かずば撃たれぬのが道理だ

それでも私は撃ち続ける
不実と不正義がまかり通ることを
倫理的堕落を看過することを
差別を黙視することを許せない

間違いは糺されねばならない
過ちは償われなければならない
当たり前のことを当たり前にする
ただそれだけのこと

私は夜な夜な鎌を研ぐ
誰かを刈るためではない
不実と不正義と差別とを撃つためだ
そして、今夜も鎌を研ぐ

11月12日、大事なお知らせです！

このたび、豊中・狭山事件研究会「ストーン・リバー」のホームページを閉じました。長らく、訪問いただいた方に感謝申し上げます。閉鎖の理由の第一は、更新の滞りが著しくなったこと、第二の理由は、管理者の事情でが管理不能になったことです。しかし、これは「狭山闘争」からの撤退ではないことを申し添えておきます。

以下のとおり、ヤフーにおいてブログを開設し、今後はここで情報発信していきますので、おつきあいのほど、よろしくお願いいたします。

豊中・狭山事件研究会「ストーン・リバー」
http://blogs.yahoo.co.jp/toyonakastoneriver

写真：東京高裁（08.10.31）

11月8日、豊中発「同推校」の矜持

人間には表に現れるものの他に、秘められた可能性があることは周知のことですが、子ども（中学１年生）というのは“すごいなあ”と改めて思いました。11月８日、五中校区地域教育協議会主催の「ふれ愛子どもカーニバル」のプログラムの一つとして「轟温泉」を会場に行われた、第五中学校の一年生による「温泉寄席」が、それをまざまざと示してくれたのです。

この「温泉寄席」は、【おふろから豊中（まち）が見える】という取り組みのとして、一学期には、「市立共同浴場　轟温泉＆市営住宅１．２棟」の「誕生秘話と現在のようす」、また「地域の人々の願い」について聞き取りをして、学習をしました。そのことを人担の森田さんは、「ＪＩＮＴＡＮつうしん」で以下のように書きました。

今の「轟温泉」は５代目の温泉でね。１代目の温泉は“１銭”というお金を払って、地域の人たちが、自分たちで管理してたそうです。地域には、「ここで生まれ育った・生活している」っていうことで“はみご”にされてきた人たちが住んでいてね。「ここに住んでる」っていうことで、自分の思う仕事に就けなかったり、イロンナことがあったんだけど、自分たちの力でお風呂もつくって、がんばってたンです。でもね、いくらがんばっても、お風呂に入ってきれいにしても、 やっぱり“はみご”になっていました。
やがて、「人間は、人間としての当たり前の生活ができんなあかん」ということで、１９２９年（昭和４年）に、豊中市が、お風呂を建ててくれました。その頃は、「轟温泉」という名前ではなくて、「昭和湯」という名前だったと聞いています。そして、１９８１年に、今の場所に５代目のお風呂ができてね。環境のことを考えてガスで沸かす、近代的なスゴイお風呂が「轟温泉」なんです。お風呂に子どもを連れて行くと、お風呂に来ているおばちゃんたちが、まるで自分の子どもや孫のようにかまってくれたり、子育ての悩みの相談に乗ってくれたりする場所が、「轟温泉」でした。「轟温泉」は人の心も身体もあたためてきた温泉なんです。

こうした学びの一つの集約としてとりくまれた「温泉寄席」は、雨上がりの空に子どもたちの元気な呼び込みの声が響く中、お客さんが一人、また一人と入り、会場は満席になりました。子どもたちの緊張と観客の集中が交錯し、会場は熱気に包まれ、いよいよスタート。めくりに出囃子、落語に小話、手品に南京玉すだれ、一人一役、チームワーク抜群、生徒たちの熱演のたびに拍手が起こり、会場はさらに熱を帯び、演者と観客、老若男女が一体化しました。観客のみなさんのやわらかいまなざしと緩んだ表情に包まれて、生徒たちは、リハーサルを超えた素晴らしい「芸」を披露してくれました。「轟温泉」が、和やかで温かい雰囲気をかもし出し、いつもと違った空間に見えるほどでした。

この「温泉寄席」は、第五中学校がすすめる「夢バトン・はみごのないまちづくり」の一環であり、「部落問題学習の新しいスタイル」に通じるものだと改めて思いました。部落問題学習をどうつくるか？誰もが、どこでも、苦慮しています。AちゃんやBちゃん個人に焦点を当てたとりくみは、いつでも・どこでもできますが、クラスや学年、学校全体を視野にいれたとりくみは、簡単ではありません。特にストレートに部落問題学習を展開したり、目の前にある部落問題のただ今に触れることは、とても難しくなってきています。

その意味では、【おふろから豊中（まち）が見える】というとりくみは、その際だった着眼点・着想、独創的な構想によるもので、比類のないものと言えます。時代や状況は自らを創造し、変革する人をもその内から生み出すと言いますが、「温泉寄席」はそれが結実したものです。子どもたちはもちろんですが、関わった大人たちもさまざまな学びをしたはずです。そして、「夢バトン・はみごのないまちづくり」のとりくみに新しい１ページを刻んだのです。部落問題が埋没し、部落問題学習が低迷するなかで、これだけのことをやりきったことは本当にすごいと思います。「同和教育推進校」の矜持を見る思いがしました。