在日朝鮮人が経営する貿易会社の社長の遺体が発見され、捜査が開始される。会社は社長の父親が創業したもので、公安の監視下にあった。そのさ中、前年に父親は社長室で首をくくって自殺し、長男が跡を継いだ。物語の筋となるのは、元北朝鮮軍の高官朴による、体制転覆をはかる「アイアン計画」で、その協力者として別の公安関係者が朝鮮人になりすましてもぐりこみ、計画に貿易会社を使う手はずを整えていた。社長になった長男も加わることに同意していたが、何者かに殺されてしまい、想定外の事態に。
貿易会社を監視する公安のグループは、長男の弟を工作対象にし、彼のバンドのライブの客として近づき、贔屓筋になり、情報提供者にしていく。
父子の相次ぐ死を追う中で浮かび上がってくる謎を究明する公安と刑事。はるか彼方・国境の島(対馬)でゴムボートで漂着した二人の男。この二つがつながり、関係者は対馬に引き寄せられる。
盗聴や盗撮、尾行、不法侵入など決して表には出ない公安の監視活動の実態や、犬猿の仲と言われる公安と刑事警察の確執と暗闘も織り交ぜながら物語は進行し、事件の背後にあるものがあぶり出されていく。
社長が朝鮮人というだけでチェックの対象にされ、違法な手段もふくめて、あの手この手で身辺を洗われる。こうしたことは小説の世界のことではなく、現実世界で起きていることなのだろう。そして、そこには、北朝鮮と朝鮮人に対する抜きがたい不信と差別、敵視が根付いている。
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