「狭山事件」の2年前(1961年)に起きた事件で、犯人とされた奥西勝さんは、1審の無罪判決が名古屋高裁で取り消され、一転して死刑判決となり、確定した。獄中から再審請求を繰り返したが、ことごとく却下され、2005年4月5日、名古屋高裁(第1刑事部・小出錞一裁判長)が第7次でようやく再審開始を決定した。
しかし、あろうことか2006年12月26日、名古屋高裁(第2刑事部)は、再審開始決定を取り消す決定をした(死刑執行停止も取り消し)。裁判長はあの門野博だった。
8次も棄却され、奥西さんは2015年10月4日肺炎のため八王子医療刑務所で死亡し(89歳没)、それに伴い第9次再審請求は棄却された。2015年11月6日、奥西さんの妹・岡美代子さんが第10次再審請求を申し立てたが、2017年12月8日、名古屋高裁は再審請求を棄却した。
事件が起きた葛尾(くずお)地区は、北は奈良(上葛尾)、南はと三重(下葛尾)に分かれているが、住民たちの交流がある。しかし、事件はこれを壊した。
「村」と呼ばれる集落にはどこにでもあるが、濃い人間関係と深いつながりが人々の疑心暗鬼と猜疑心に絡みつき、事件は特有の展開を見せる。そして、それは警察の描いたストーリーに沿って、「村からお縄を出さなければならない」との強迫観念とも相まって、一人の人物に集約されていく。
「自白」をしたと聞き、安堵する人々は、否認に転じたと聞くと、家族を村八分にするに至る。そして、証言をコロッと変える。かくして、奥西さんはアリ地獄の人となっていく。
カメラは、事件から半世紀余を経た人たちの今を丁寧に聞き取ることに徹している。決して押し付けたりはしない。しかし、村人の口は堅い。墓場まで持っていくつもりなのだろう。そして、忘れ去られることを望んでいるのだろう。
村人だけではなく、「自白」だけをよりどころに、科学的な新証拠を無視して確定判決を維持する裁判所もまた「村」と化して、真実解明の前に立ちはだかっている。二つの「村」が自白」を抱いたまま眠っている。
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