「心に響く温もりの声 ビタミンボイス~演歌の夜明け~」演歌歌手「三山ひろし」のキャッチコピーだ。1980年、高知の生まれ。上本町の新歌舞伎座でデビュー10周年記念座長公演があり、初めて聞いた。第一部は芝居「阿蘭陀夢七捕物帖」、第二部はオンステージ「みやまつり~熱唱!男の劇場」、3時間半のプログラムだった。
第一部の芝居はゆったり進行したが、第二部になると、場内の雰囲気がガラリと変わった。客の年齢層が高いことは予想できたが、その人たちがとても熱かった。そろいの法被を着て、手に光りものを持ったファンクラブの面々がいて、時に歌に合わせて、「ヒロシ!」と絶叫するさまは、ジャニーズファン顔負けだ。
隣りの席には80代後半と思われるおばあさんが娘さんと来ていたが、パンフやグッズなどを買い込んでいたので、お好きなんだろうと思っていたが、その彼女もやおらバッグの中から、棒状の光りものを取り出すではないか!場内は暗いから、その光がまぶしくていささか辟易したが、まあ、楽しんでいらっしゃるのだから・・・と見守る。
右隣の40代後半と思しき女性はと言えば、上着を脱いで法被に着替えて、嬉々として声を送る。前の席には3人の女性がいて、一人が光りものを上にあげて振ると、とたんに係員が飛んできて、上げないようにと注意する。「上げないと、三山君に見えないのに・・・」とブツブツ言っていた。
「ハレの日」を迎えるために、用意を整え、その場に臨む。その時間を人々はどんなに心待ちにしてきたのかは、会場を埋めた人々の晴れやかな顔が表している。三山はそんな人たちの心や思いを掬い取るように、丁寧に視線を送り、眼を合わせ、気持ちを通い合わせつつ、舞台を務める。衣装も金ぴか者を含めて、袴から洋装、和装と何度も変え、得意のけん玉(4段)も披露するなど、徹底したサービスぶりで飽きさせない。大事なものがここにはあるなあと改めて思った。
肝心の三山君の歌だが、これは言うことなし。とにかくうまい、心地よく癒され、元気になる、まさしくビタミンボイスだ。今は聞くことが稀になった長編歌謡浪曲に代表される三波春夫の歌、男・村田英雄の歌、心に染み入る美空ひばりの歌など、たっぷり聞かせてくれた。ゲストの篠笛奏者:佐藤和哉の引き込まれるような篠笛の音色にも魅了された。
芸能・演芸のルーツをたどると、被差別民に行き着くが、それらは民衆の暮らしとも不可分であったはずだ。その意味で言えば、三山ひろしの舞台は、まさしく大衆芸能・演芸とはかくあるべし!を地で行くものだと痛感した。