著者の中島さんは、東京で7年間バスガイドを務めた後、南魚沼市内のバス会社勤務を経て、地元南魚沼の地域観光ガイドとして独立。雲蝶に魅せられた一人で、NPO六日町観光協会主催の「名工・石川雲蝶作品巡りバスツアー」の専属ガイドを務めている。本書は中島さんから雲蝶への時空を超えたラブ・レターだ。
すでに書いてきたことだが、石川雲蝶<いしかわ うんちょう、1814年(文化11年)- 1883年(明治16年)5月13日>は幕末期の彫物師で、縁があって(うまい話に誘われて)越後に来て、お寺などに千点もの作品を残した。別名“日本のミケランジェロ”と言われるほどの凄腕で、その作品は観る者を虜にし、唸らさずにはおかない。
しかし、雲蝶その人についての記録は焼失し、謎に包まれた部分が多い。そこで、雲蝶に魅入られ、惚れ込んだた中島さんが持てる物を駆使し、イメージをふくらませ、タイムマシーンに乗るかのように、謎解きにも似た旅をする、というのが本書の趣向といえよう。
酒と女性と博打が大好きだったと言われる雲蝶。それらの「誘惑」が作品を生み出す動機だったとは言いすぎだろうが、とにかくのめり込んだことは間違いないだろう。本書にはそんな逸話めいたことがいくつもちりばめられている。そして、なおかつとてつもない作品を残したのだから恐れ入るとしか言いようがない。
その作品群にも雲蝶ならではの「仕掛け」が施されていることを中島さんが書いているが、これなど教えてもらわなければ見逃してしまうところだ。そうした遊び心を如何なく発揮した雲蝶、そこにも暖かく、ユーモア精神に満ちた人柄が現れている。本書を読めば、きっと雲蝶に会いたくなること請け合いだ。一度は観てみたい。そして、一度観ると、もう一度観てみたくなる、そんな雲蝶作品だ。
この頃寺社を訪れると、門柱や欄間、長押などの彫刻に自然と目が行く。そして思う。ああ、やっぱり雲蝶はすごいなあと。