第86回アカデミー作品賞受賞作「12 Years a Slave」(それでも夜は明ける)は、時にスクリーンから眼をそらし、耳をふさぎたくなるが、惹きつけて止まない力を持って迫り、それを許さない。本作はソロモン・ノースアップ著作の自伝(実話)をスティーブ・マックイーン監督が映画化したものだ。
ソロモンは、1841年にニューヨーク州サラトガに自由の身で生まれた(黒人が奴隷として扱われる時代だが、「自由黒人」もいた)バイオリニストだ。それがある日、罠にはめられ、拉致されて南部ルイジアナに売り飛ばされ(「自由証明書」を携帯していない黒人=奴隷として扱われる)、綿花農園の奴隷として白人たちの容赦ない差別と暴力に晒される。
しかし、ソロモンは希望と尊厳を失わずに耐えた。12年の歳月が流れたある日、奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会い、事態は動く・・・。
歴史を振り返ってみる。アメリカは1776年にイギリスから独立する。そして、南北戦争のさ中の1862年9月にリンカーンが南部連合地域に「奴隷解放宣言」を発し、それが1865年に憲法が修正され、奴隷制が廃止される。映画は、この間の出来事だ。
マックィーン監督は、インタビューでこう言っている。
「(原作を)読み始めると、ページを繰る度に、驚くべき新事実が明らかになっていったんだ。そして、本を読み終えるや、自分自身に腹が立った。『なぜ、この本のことを知らなかったのか』ってね。それから、誰も(この事実を)知らないことに気づいたんだ。それが、この本を映画化した理由さ」。
そう、知っているようで知らないことはいくらもあることを改めて知らされた。そして、知ることができてよかったと思う。
常々、「人権」「自由」「民主主義」を振りかざし、他国を攻撃するアメリカだが、自らの内にも目を向ける問題はある。映画はそれを鋭く暴いてみせた。そして、それが人々の賛同・共感・賞賛を得て、栄えある賞に輝いた。商業主義の一コマであり、所詮は資本主義に呑み込まれただけだと断じることもできるが、そこにこそアメリカの底力を見る思いがする。
翻って、わが足元の国はどうかと問えば、そんなくそ力はどこにもないような気がする。部落問題でいえば、そもそもそうしたテーマは映画にはならないし、制作意欲を刺激するような作品も書かれないのが実情だ。
さて、自由を取り戻したソロモンは、その後、「地下鉄道」なる組織で逃亡奴隷の亡命を手助けをする活動をしたそうだが、いつ・どこど・どのように亡くなったのかは不明だと、最後にテロップが流れた・・・???
「明けない夜はない」、これは真実だ。いかなる困難がのしかかろうとも、その確信を持ち、ひたすら念じ、想いを届けることができれば、活路が開き、希望が実現するはずだ。積み重ねられた「敗北」は、「その日」のための触媒でもある。狭山闘争、苦闘の50年。夜明け前の闇は深いが、化学変化は必ず起こるはずだ。夜は必ず明ける。