開示証拠の使用制限条項に関する会長談話
この度、当会会員が、自ら弁護人として弁護を担当し、無罪判決をもって確定し終局した刑事裁判の取調べ済み証拠である「被告人の取調べ映像を収録したDVD」をマスコミに提供したことについて、検察庁から当会に対して懲戒請求がなされる事態となっている。懲戒請求に対しては、弁護士以外の外部委員も加わった当会内の独立した委員会において適正に審議がなされ判断が示されるものである。
したがって、当会は具体的な懲戒請求の是非について意見を述べる立場にはないが、今回のいわゆる「開示証拠の目的外使用」の問題に関しては、その立法当時において、目的外使用禁止の対象範囲を巡って厳しい議論が交わされた経緯があるので、改めてその経緯を踏まえ、敷衍して述べる。
2004年(平成16年)の刑事訴訟法の改正により、公判開始前における証拠開示制度が拡大されたが、併せて、開示された証拠の複製等の使用による弊害に対処するためとして、開示された証拠の複製等を被告人若しくは弁護人が審理の準備以外の目的で人に交付し、提示すること、電気通信回線を通じて提供することを全面的に禁止する条項(開示証拠の使用制限条項)が付加された(刑事訴訟法第281条の4、以下「本条項」という。)。また、本条項に違反したときには懲役刑を含む罰則も定められた(同法第281条の5)。
この改正にあたり、日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、被害者や第三者のプライバシーを保護する観点から、必要な範囲で開示証拠の使用制限条項を設けること自体に反対するものではなかったが、本条項は、証拠の内容を問わず、また公開の法廷に提出された証拠か否かを問わず一律に使用禁止の対象としていることから、その使用理由が如何に正当なものであったとしても、審理の準備以外の目的で使用することは全て禁止されることになり、被告人の防御権を不当に制約することは勿論、裁判公開の原則や報道の自由とも抵触するおそれが大きいとして、国会に対し、「正当な理由のある開示証拠の利用については禁止対象から除外する修正が図られることを強く求める。」との会長声明を公表している(2004年4月9日)。
日弁連の反対にもかかわらず本条項は修正されずに成立し施行されるに至ったが、その結果、日弁連及び当会が懸念した事態が今回現実化したともいえ、改めて、懲戒請求の是非とは別に、本条項について、正当な理由のある開示証拠の利用については禁止対象から除外すべきとの観点から立法的課題として再検討が必要であると思料する。
2013年(平成25年)7月16日
大阪弁護士会
会長 福 原 哲 晃