デベロッパーと広告会社、調査会社の3者に対する糾弾会が相次いで行われているが、「事件」の着地点がおおよそ明らかになってきたように思う。解放同盟が3者に求めていることは、以下の4点に集約できる。
①反省文を提出し、ホームページで公表すること。
②人権啓発推進体制を確立し、人権研修計画を策定・推進すること。
③自主規制のルールを定め、内外に公表すること。
④同和問題に取り組む業界の自主的組織結成に協力すること。
⑤大阪同和・人権問題企業連絡会への加盟をすること
これらは、「事件」の当初から想定された内容であり、その意味では「もっとも」という気がしないではない。他方、事件の「主役」であるデベロッパーの一部は、以下のような対応を明らかにしている。
①「市場調査」の発注仕様を改定し、土地差別につながる恐れのある「地域特性」および「立地特性」を削除する。
②報告書は、複数人でチェックし、「差別表現」等不適切な表現がないか確認を行う。
③「差別表現」等不適切な表現を発見した場合、広告代理店に指摘・指導を行い、改善が見られない場合は、以降の取引を停止する。
部落差別につながる項目を調査から外し、仕様化し、チェック体制を強化し、万一差別調査があった場合には、厳格に対応するとしている。おそらく、他社も足並みをそろえることになるだろう。
かくして、「事件」は一応の「解決」に至るのだろうが、やはり、「それでいいのか?」という気がする。研修や市場調査の「自主規制」、自主組織の結成など否定はしないが、余りにもパターン的で、「事件」自体が矮小化されたような印象は否めない。改めて言うまでもないことだが、部落の所在地情報を含む、さまざまな差別情報を需要する人々が存在する限り、調査報告書からそれらが消えたとしても、情報は地下に潜り、さまざまなツールとルートを通じて行き交うことは間違いない。換言すれば、「事件」が提起している問題は、部落とみなされる地域への「特別視と忌避と排除」という根強い差別意識にどう切り込み、これを解体していくかにあるということだ。だから、発注仕様を改定し、差別につながる恐れのある事項を削除したとしても、それは問題に蓋をするだけで、解決とは別物だ。
「平成のオールロマンス事件」として世に問うのであれば、「事件」を部落解放運動の世界に閉じこめて「処理」するのではなく、澱のように人々の意識の深層に貼り付いている差別意識を撹拌するなかで、問題の所在をさまざまな人たちと共有化し、解決策を探る努力を重ねるべきだろう。
組織であれ、人間であれ、単独でやれることには限界がある。一手に何もかも握り、コントロールするのではなく、他者を信頼し、衆知を集めることが大事だ。そして、山に登るルートはいくつもあるように、「事件」へのアプローチもそうであっていいし、それが運動と組織を活性化する道でもある。それらを封じ、手早くまとめることによって切り取られ、失われたものは何であるか、想像力を働かしてほしいと思う。