「第Ⅰ部 基調方針」の「4 部落のおかれている状況と差別の実態」では、「陰湿で巧妙な差別調査事件の増加と出身者の苦痛・不安」と題した項に主な差別事件が紹介され、その末尾に「立花町差別ハガキ偽造事件」について触れている。曰く、
こうしたなか、福岡県立花町で痛恨の事実が明らかになりました。03年12月に発覚して以来、真椙究明にとりくんできた「立花町連続差別ハガキ事件」は、09年7月7日、「被害者」が「自作自演」であったとして偽計業務妨書罪容疑で逮捕され、10月26日有罪判決が出ました。このことについて、福岡県運合会は11月24日、「『差別ハガキ偽造事件』についてー最終見解と決意」を公表し、県運としての謝罪と第3者機関の設置による提言を受けた再発防止など今後の組織としての課題について明らかにしました。
何ともあっさりというか、淡泊かつ他人事のような物言いで、商業新聞のベタ記事を想起させる。これまで「解放新聞」を始めとする関係媒体で一大事件として繰り返し報じられたことを思えば、なぜこうした事態が引き起こされたのか、一県連の問題として処理するのではなく、中央本部としてきちんとした総括(反省)をすべきだろう。「事件」をどのように受けとめて、どのように対応したのか、「知る人ぞ知る」ということを忘れてはならない。そうでないと、いくつも紹介されている差別事件がストレートに受けとめられることが損なわれはしないだろうか、と私は心配になる。
その意味で言えば、「方針」は組織内向けに書かれたもので、「外」を意識してはいないから、そうした物言いになるのだろうとは思う。もし、そうであるとするならば、それは部落解放運動のいわゆる「自殺行為」と言わねばならない。自他共に有意な社会運動組織としてその位置と役割とを果たしてきたし、今もこれからもなおそうした存在意義と価値を発揮しようとするならば、「外」を意識すべきことは言うまでもないからだ。しかし、この記述を見る限り、そうした視点、立ち位置が見えてこないのはどうしたことかと思う。
ボクシングのボディーブローはスタミナを奪い、じわじわと効いてくるものだが、この事件も部落解放運動のボディーブローとなるのは間違いないだろう。それだけにより真摯な対応を心すべきなのに、それが見当たらないのが残念だ。