1966年の「袴田事件」で死刑が確定し、静岡地裁の再審開始決定で釈放された元プロボクサー、袴田巌元被告(84)=最高裁に特別抗告中=を支援する日本プロボクシング協会「袴田巌支援委員会」が、事件をテーマに製作した漫画「スプリット・デシジョン」に音声を吹き込み、インターネット上で公開を始めた。【古川幸奈】
漫画は静岡市清水区出身の元プロボクサーで漫画家の森重水さん(32)が作画。袴田さんが逮捕後に過酷な取り調べを受け「自白」し、死刑が確定するまでや静岡地裁の再審開始決定時の様子、東京高裁が地裁決定を取り消すまでの約半世紀を描いている。日本プロボクシング協会のホームページで閲覧できる。
支援委員会は、漫画をさらに広めるため、長年にわたり親交のある声優、磯部弘さんにナレーションを依頼。委員会メンバーの新田渉世さん(52)や元東洋太平洋フェザー級王者の今岡武雄さんら6人も声優として参加した。収録するスタジオは、趣旨に賛同したボクシング関係者から無料で貸してもらった。
音声入りの漫画第1話は、3月28日にインターネットの動画投稿サイト「ユーチューブ」(https://www.youtube.com/watch?v=kho8ZZ4ozQI)で公開された。今後は毎月1話ずつ更新し、4話で袴田さんと同居する姉秀子さん(87)も自身のセリフに声をあてる予定だ。
新田さんは「漫画がネット上で拡散され、事件に関心を持ってくれる人が増えれば再審開始に向けた世論を喚起できる。司法へ訴える力になれば」と語った。
「精神状態 今も獄中」釈放から6年
「人類がよくなってきたんだね。偉くなるための階段だね」。3月10日午後、袴田巌さんの自宅で支援者が開いた誕生日会。記者が「84歳になった今の気持ちは」と尋ねると、袴田さんは穏やかな口調で答えた。静岡地裁の再審決定で釈放されてから6年。表情が柔らかくなり、日常生活に慣れるなどのよい変化があった一方、長期間の拘置によって生じた妄想の症状のため、会話がかみ合わないことも多い。
袴田さんはほぼ毎日、数時間かけて浜松市内の街中を歩く。時折、ベンチに腰掛けて独り言をつぶやくこともあり、街歩きに同行する支援者は「袴田さんの中に現実世界と自分の妄想世界が混在している。顔つきは優しくなったが、精神状態は今も獄中にいた時と変わっていない」とみる。
新型コロナウイルスの感染は全国で拡大に歯止めがかからず、袴田さんを支援する動きに影響も出ている。同居する姉の秀子さんが出席する予定だった支援集会は中止や延期となり、弁護団も思うように活動できない状況が続く。弁護団事務局長の小川秀世弁護士は「何とか今年中に決定的な新証拠を提出し、即座に決定を出すように最高裁に求めたい」と話している。【古川幸奈】
袴田事件
1966年6月、静岡市清水区(当時清水市)で、みそ製造会社の専務の男性方から出火。焼け跡から専務と家族3人が他殺体で見つかった。同社従業員の袴田巌元被告が逮捕、起訴され、無罪を主張したものの80年に最高裁で死刑が確定。第2次再審請求に対して静岡地裁が2014年に再審開始を決定し、袴田さんは釈放された。東京高裁は18年に釈放の判断を維持したまま、地裁決定を取り消した。弁護側が最高裁に特別抗告している。
まだまだやっていないこと、チャレンジできていないこともあるはず。
この時間にそれを探してみるのもいい。