「最強の有力証拠」に疑い
狭山再審の新証拠 「万年筆」は被害者のものではない
菅野良司
1963年5月に埼玉県狭山市で起きた女子高校生殺害事件で再審を求める石川一雄さんの弁護団は、8月22日、有罪を覆す有力な新証拠を東京高裁に提出した。
新証拠は、長い再審のたたかいでも光があたりにくかった「万年筆のインク」問題を平易かつ常識的に解明しており、弁護団は「物証から、有罪ストーリーを粉砕するもの」と位置づける。石川さん無罪の決定打ともみられる新証拠を紹介する。
編集後記 清宮美稚子
まるで東京オリンピックに向けてゆるやかな翼賛体制が作り上げられようとしているかのようだ。リオ・オリンピック閉会式での「マリオ」の登場は衝撃的だった。このまま行けば、2020年の開会式に似たようなコスプレ姿で登場するのもまた同じ顔なのだろうか。総裁任期延長はすでに所与のものとして、自民党内で地固めされつつあると感じる。本気で異を唱える者はいるのか。多くのメディアはすでに骨抜きだ。世論調査で「2020年も安倍首相で」が59%に上ったというが、ひと夏の興奮ゆえか、はたまた「マリオ」効果か。
東京オリンピックに向けてのテロ対策の名の下に、何度か葬られたゾンビ「共謀罪」の復活が目論まれている。一気に興ざめてもおかしくないニュースだが。
「3分の2」を手にした安倍首相が、次にのどから手が出るほどほしいものが何なのか、その振る舞いが明らかにしている。8月末のアフリカ公式訪問で例によって大盤振る舞いしたのも、国連改革という名の日本の国連安保理常任理事国入りが狙いとわかりやすい。
「2020年も安倍で」のためには、政権維持装置としての「アベノミクス」は死守したい。デフレは脱却できなくても、株価の高止まりには成功している。それもそうだろう。日銀の異次元金融緩和以降の「爆買い」で、日経平均株価を構成する企業の9割弱で日銀が実質的な大株主になっているという(これって資本主義と言えるのか)。株価に下駄をはかすもう一つの機関がGPIFだが、2016年4~6月期の年金積立金運用実績は5兆円以上の赤字となった。二期連続赤字であり、株価=政権維持のために半年で10兆円が霧のごとく消えたことになる。
このような大盤振る舞いを通り越した無茶苦茶がまかり通る一方、目立たないながら大胆に、社会保障が削られていく。たとえば、「骨太の方針」(2015年6月閣議決定)に明記された要介護度の軽い人たちへのサービス見直しの検討が政府内で進んでいるが、その一環として、2018年4月から福祉用具レンタルの原則自己負担化を目指しているという。このことを『東京新聞』が二度にわたって一面で報じると、オリンピックの喧騒中にもかかわらず大きな反響を巻き起こした。介護保険の費用抑制のためというが、政府の掲げる「一億総活躍」や「介護離職ゼロ」にも逆行し、政策としての整合性は完全に破綻している。
「2020年も安倍で」と言っている間に、このようなモラルの底が抜けた事態が平然と進み、貧困・格差はさらに拡大、分断社会の亀裂は不可逆的に広がり、レジリエンスの低い社会に変容していく。全く違う国に作り変えるがごときこの実験を何とか食い止めなければならない。
戦後70年の安倍談話を境に、歴史の忘却も急速に進んでいる感がある。日本軍「慰安婦」問題をめぐっては、メディアの報じ方も一因だが、12・28日韓「合意」と7月の「和解・癒やし財団」発足をもってこの問題が(ソウル日本大使館前の少女像の移転問題を除けば)解決したかのように見えている。しかし決してそうではない。韓国では「慰安婦」被害者を支援する市民団体が中心になって、「正義・記憶財団」が設立された。「慰安婦」など戦時性暴力問題に韓国の女性たちがどう真剣に取り組んできたか、その歴史を総括し責任を伝承する一つの試みとして、今月号から始まった李娜榮氏の連載をぜひお読みいただきたい。