まずはタンゴについて。
タンゴは、1880年頃、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスと、ウルグアイの首都モンテビデオに挟まれて流れるラプラタ河が大西洋にそそぐ河口地帯の両岸で生まれた。その頃,南米はヨーロッパから移住してきた白人,アフリカから労働力として連れてこられた黒人,そして原住民のインディオ系の人々とがごっちゃになっていた。北米がアングロサクソン系の移住者が多かったのに対し,南米はラテン系の国の移住者が多かった。このような19世紀末の南米というカオス的状況の中でタンゴは生まれた。諸説あるが,黒人たちの持ってきたアフリカ系音楽の強烈なリズムと,白人たちの持つヨーロッパ的クラシックの旋律が混じり合ってできた音楽だと言われている。このことは,何もタンゴだけに当てはまる話ではなく,ブラジルのサンバやルンバ,キューバのサルサ,レゲエ,アメリカのジャズも同じような起源を持つ。そう、ロックのルーツであるかのブルーズもだ。
映画は、タンゴ史上最高のダンス・カップルと言われるマリア・ニエベスとフアン・カルロス・コぺスの半生を、マリアへのインタビューと語りで追う。二人はタンゴ全盛期の40年代に14歳と17歳で出会い、恋に落ち、トップへとのしあがっていく。1950~60年代の半ばに結婚・離婚。その間に、タンゴのブームは来ては去った。フアンは70年代前半に若い女と再婚、マリアは激怒する。彼らはタンゴで世界を征服したが、「タンゴ・アルヘンティーノ」の日本公演後の1997年、50年に及んだコンビを解消した。
当時の映像も挟まれ、アルゼンチン・タンゴの名曲に乗って、マリアとフアン役の若いダンス・カップルが魅惑的に舞う。リズム感にあふれた音楽と演奏に合わせて身体を密着させ、一心同体化し、縦横無尽に宙を切り裂くタンゴの世界、またよきかなだ。