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アテルイ【? - 延暦21年8月13日(802年9月17日)】は、平安時代初期の蝦夷の軍事指導者。789年(延暦8年)に胆沢(現在の岩手県奥州市)に侵攻した朝廷軍を撃退したが、坂上田村麻呂に敗れて処刑された。本名は大墓公阿弖利爲(たものきみあてりい)。
アテルイは、史料で2回現れる。一つは、巣伏の戦いについての紀古佐美の詳細な報告で『続日本紀』にある。もう1つはアテルイの降伏に関する記述で、『日本紀略』にある。
史書は蝦夷の動向をごく簡略にしか記さないので、アテルイがいかなる人物か詳らかではない。802年(延暦21年)の降伏時の記事で、『日本紀略』はアテルイを「大墓公」と呼ぶ。「大墓」は地名である可能性が高いが、場所がどこなのかは不明で、読みも定まらない。「公」は尊称であり、朝廷が過去にアテルイに与えた地位だと解する人もいるが、推測の域を出ない。確かなのは、彼が蝦夷の軍事指導者であったという事だけである。
征東大使の藤原小黒麻呂は、781年(天応元年)5月24日の奏状で、一をもって千にあたる賊中の首として「伊佐西古」「諸絞」「八十島」「乙代」を挙げている。しかしここにアテルイの名はない。
『日本紀略』には、同年の4月15日の報告として、大墓公阿弖利爲(アテルイ)と盤具公母礼(モレ)が500余人を率いて降伏したことが記されている。2人は田村麻呂に従い7月10日に平安京に入った。田村麻呂は2人の命を救うよう提言したものの、平安京の貴族たちは「野性獣心、反復して定まりなし」と反対したため、8月13日に河内国にてアテルイとモレは処刑された。
<引用おわり>
このように阿弖流為については、確かなことは何もわからないのが本当のところだ。しかし、大和朝廷の侵略軍と戦い、幾度も撃退した蝦夷の指揮官であったことは間違いないようだ。阿弖流為をめぐる史実とそれにまつわる不確かな事柄、それらが想像力を掻き立て、さまざまな物語が生まれるのもまた阿弖流為の偉大さを示すものでもあるかもしれない。
本書もその一つと言っていい。阿弖流為は俘囚として大和に従うふりをしながら、密かに反撃の機会をうかがい、見事にそれをやりきったアザマロの息子という設定、さらに僚友・モレをイワイの女巫として登場させ、阿弖流為と夫婦になることによってイサワとの連合を成立させ、最後は共に首を刎ねられるという設定。これらは奇想天外とも思えるが、それは著者の想像力を掻き立てて止まない阿弖流為伝説のなせる業でもあると言えるのではないか。ことほど左様な物語が紡ぎ出されるところに汲めども尽きせぬ魅力が阿弖流為にあるということなのだろう。