東京高等裁判所第4刑事部裁判長 河合健司 さま
狭山事件第3次再審についての要請書
6月29日付でさいたま地裁に異動とのニュースを知り、とても驚きました。いずれはこうした時期が来るとは思っていましたが、「この時期」とは意外でした。
と申しますのは、私が注目している「狭山事件」の第3次再審が貴職に係属し、既に9年余審理され、河合裁判長のもとでも2年余が経過し、山場に向かう重大な時期にあるからです。裁判長が交代したからといって、事態が大きく変わることはないとは確信しております。しかし、新任の裁判長が事件や審理経過等を把握する時間的な猶予は必要でしょうし、その上での判断等がこれまでと軌を一にするものになればいいですが、それは予想しかねます。
その意味で、一抹の不安を抱くところがあり、このたびの交代が期待している「再審開始」の流れをとどめるような結果にならないよう、改めて要請をすることにした次第です。
河合裁判長のもとで、2013年5月8日の第13回から2015年5月28日の第23回まで、11回におよぶ三者協議が重ねられ、未開示証拠の開示が行われ、2015年1月22日には検察官が東京高検の保管する全ての物的証拠のリストを弁護団に開示するに至りました。これらは、第4刑事部の積極的な姿勢・対応の結果だと思います。
もとより、証拠は検察の私有物ではありませんから、弁護側に全て開示するのが理の当然でありますが、現実はそうなっておらず、特に再審事件では、証拠開示がその帰趨に決定的な影響をもたらします。その意味でも、2009年12月16日の「門野勧告」に始まる狭山事件での証拠開示の流れは、とても心強く思うところです。
しかしながら、再審開始を展望した場合、証人調べや鑑定人尋問などの事実調べが未だ行われる気配がないことが気にかかります。狭山事件では、1974年10月31日の控訴審判決以来、公判廷においての「審理」が閉ざされたまま、「棄却」決定が積み重ねられてきました。「現場」を見ることもなく、証人の声を聞くこともなく、鑑定人の意見を確かめることもなく、ひとり裁判官の見立てで断じることの不合理は明らかだと思います。
すでに「異動・交代」が決まっていますが、発令までまだ幾日かありますので、以下の点が実現するよう考慮いただき、後任者に引き継いでください。
1.東京高検以外の浦和地検、埼玉県警などの証拠物を含む一覧表の開示をしてください。
2.証人調べや鑑定人尋問などの事実調べ、現地調査を速やかに行なってください。
2015年6月15日