あいさつの続き
さて、部落解放運動に出会った頃を思い出してください。いつ、どんなきっかけで解放運動に入ってきましたか?それこそ、十人十色でさまざまだと思います。そして、大事なことは、そのなかで自分がどう変わったのかということです。解放運動に出会い、関わるなかで、それまでの自分とはずいぶん変わったはずです。そう、部落解放運動の一番の成果は、人を変えてきたことだと思います。
部落問題に対する見方は言うまでもありませんが、日々のくらしのあり方、子育てのあり方、夫婦関係のあり方、世の中を見る見方など、部落解放運動は私たちの物の見方、考え方を磨いてきたと思います。まさに、部落解放運動は世界を見る力を培ってくれたと言えます。
寺本さんはこんなことも言っています。
「部落解放運動は、あたたかい心で豊かな人間にするためにやってるんです。だから、みなさんも美しい音楽を聞いたら美しい、美しい美術作品を見たら美しい、そういう眼が養われてこないとだめなんです。本当に解放されるということは、豊かに楽しく生きるということなんです。」
奥深い言葉で、なかなか寺本さんの言うようにはできませんが、部落解放運動は、それを担う人や関わる人自身が「解放」されることが大前提であること、人間のくらしと切っても切り離せない「文化や芸術」(寺本さんいわく、「額に汗して働く人々、虐げられてきた人々が生み出したもので、権力者や金持ちが創り出したものではない」)は、心を豊かにし、魂をゆさぶるもの、人間を解放するものであるということ、部落解放運動は文化運動だということ、これを踏まえることだと思います。
そんなふうに考えると、私たちはまだまだ固い殻をかぶったままで、「あたたかい心をもった豊かな人間」にはほど遠いような気がします。その意味では、寺本さんの生誕100年にあたり、今一度、寺本さんが言うところの「文化・芸術と人間の解放」をキーワードに、部落解放運動を見直し、創り変えていくことが必要だと思います。それが、私たちが求めてきた「とよなからしい新しい部落解放運動」になるような気もします。