本書の冒頭で、「91歳の遺言として」と題して、「思いもかけずに90余年を生きてしまった。1922年5月15日生まれの私は、この5月で満91歳になる。もの書きになって、ペン一本に頼って生きはじめてからも60年余りになる。ここに集めた文章は、その折々に著した私の真剣な心構えと、それを世間に伝えたものばかりである」と書き、「私にまだ定命が与えられているのは、戦争を経験し、この世に起こった歴史的な事件を見てきた者として、それらをどう捕えたかということを、現代の人々に伝える為に命を与えられているのだと自覚する。どうか現代の若い人々に読んで貰いたいと切に願って、集めてみた」と思いを吐露している。人生のエンディングを前にしたメッセージだ。
さらにいくつか引用する。
「私は革命家は好きだが、革命家と政治家は全くちがう。革命家ははじめから命を賭して、自分以外へ何者かのために奉仕しようという情熱に燃えているから美しい。しかし革命家の時、美しくすばらしい男であった者が、目的を達した世界で生き残り、その世界で権力の座につくと、ただの人以上に下司な政治家になってしまうことがあるのは、歴史が示してきた。本当の革命家というのは、革命がなったその時その地から去っていける人間だけをいうのであろう。」
「地球の上に、無実で泣いている人が一人でもいるかぎり、人権の尊厳を犯されている人が一人でもいるかぎり、それは今、生きているすべての人間ひとりひとりの責任なのではないかと、私は改めて考えこんでいる。」
「やっぱり想像力が足りないのよね。だから特に若い人たちには本を読みなさいと言いたい。想像力って、本当は生まれたときにみんな同じくらいもらってて、それを育てるか育てないかの違いだけなのね。花だって肥料をやらないと咲かない。その肥料となるのが本、読書なんですよ。」
「情熱のない生き方なんてつまんないじゃない。いつだって青春というのは恋と革命なんですよ。九十になっても青春の火は消えきっていないからね、老春といいます。だから死ぬまで恋と革命ですよ。」
「私も九十歳になってつくづく思うことは生きるということは行動することです。闘い、行動しなければ駄目ですよ。それでなければ生きたことにはなりません。若い人は特に行動してください。」
恋と革命に生き、命がけで行動し、鮮烈に散った女性たち(菅野スガ子、伊東野枝、金子文子、平塚雷鳥)を書いた彼女の一連の作品は、心を揺すぶらずにはおかないが、彼女の生きようが重なって見える。90を超えて「老春」を生きる姿は、真骨頂の発揮そのもので、まさにほんものの「革命家」といえるだろう。かくあり、かくこそ生きたいと思わしめる書だ。