「名張毒ぶどう酒事件」の第7次再審で、最高裁が審理を名古屋高裁に差し戻した。再審開始への期待が高まるが、審理は検察の異議申し立てをした段階に戻るだけで、再審開始決定に至るかどうかは未知数だ。しかし、朗報であることに変わりはない。し、罪事件の真相解明への流れは、また一つ確かなものになったことは間違いない。
最高裁決定は次のように言う。
異議審は、当時の三重県衛生研究所のペーパークロマトグラフ試験でトリエチルピロホスフェートを検出できなかったと考えることも可能としたが疑問だ。各成分の重量比などを考えれば、別成分は検出され、トリエチルピロホスフェートだけ検出限界を下回った理由を合理的に説明できない。
異議審が科学的知見に基づき検討をしたとはいえず、推論過程に誤りがある疑いがある。事実は解明されておらず、審理は尽くされていない。
県衛生研究所の試験で検出されなかったのは、事件検体にニッカリンTが含まれていなかったためか、検察側が主張するように事件検体にニッカリンTが含まれていたとしても濃度が低く、発色反応が非常に弱いことが原因なのかを解明するため、事件検体と近似条件で試験を実施するなど審理を尽くす必要がある。
この名古屋高裁で異議審を担当し、再審開始決定を覆したのは、あの門野博裁判長だったが、果たして門野さんはこれを読んでどう思うだろうか?ここまで明確に審理内容を批判されたら面目は丸つぶれだろう。しかし、流れとしては、布川事件で再審開始決定をし、狭山事件で証拠開示勧告をするとは予想しなかった。冤罪を訴える事件での判断の分岐はどこにあったのかと思う。もしや、「名張毒ぶどう酒事件」での再審開始決定取り消しが、わだかまりとしてあったのかもしれないのではと勘ぐってしまう。
いずれにしても、「事件発生から50年近くたち、再審申し立てから8年近く経過した。差し戻し審での証拠調べは必要最小限の範囲に限定して効率良くなされることが肝要だ。化学反応への見解が学者によって対立することは理解に苦しむ。効率的な証拠調べで対立点の早期究明が求められる」と、田原睦夫裁判官の補足意見にあるように、迅速な審理によって速やかに再審開始がされるべきだ。